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(レポ)発達障害の大学生の支援

5月と12月に恒例となった感のある、信州大学子どものこころ診療部セミナー(参加費無料、関係者は誰でも参加可)が開催されました。
今回は「発達障害のある大学生の支援」というテーマで、講師は信州大学学生相談センターの障害学生支援室長の篠田直子先生でした。

具体的で勇気づけられる素晴らしい講演でしたので、その内容の一部を、感想とともにシェアさせていただきます。

大学生の発達障害

大学のユニバーサル化、障害者権利条約の批准にともない障害者差別解消法などの法律も整備され、特に発達障害の学生への支援も増えており、全障害学生の15.8%が発達障害で、そのうちの7割がASDとのこと。

今やたいていの大学にも障害のある学生を支援する部署ができ、東大などでは専従スタッフを多数擁するなど力を入れていますが、長野県内にキャンパスが点在する信州大学でも専従の職員は一人であり、人手不足ではありますが、カウンセラーは各キャンパスに配置され保健管理センターや大学病院とも連携を取りながらチームで学生をサポートしているようです。

発達障害のある学生は、大学生活においても、臨機応変な対応ができない、認知や興味が偏る、コミュニケーションスタイルが独特、ミスや忘れ物が多い、片付けや段取りができない、読むことが極端に遅い、手書きとワープロで各内容が全く異なる(あるある(^_^;))などいろいろな困難があります。

発達障害の特性に関して講師の先生は「独特の脳内処理」という言い方をされていましたが、意識、認知、判断、読み書き(速度、記憶)、抑制制御、自他意識などに特徴があるそうです。そして、その特性はスペクトラム(誰でももっている特性の強さ、あるいは機能の弱さ)でありますが、その特性の強さと環境の特徴がミスマッチすることで障害状態になります。
他の問題から相談がはじまってもカウンセリング等でメンタルが落ち着いてくると、発達障害特性が明らかになる場合もありますが、二次障害によるものばかりではない他の精神障害や身体障害との併存も多いとのことでした。

発達障害特性のある学生でも環境にマッチしていれば適応でき、ユニークな学生になります。

一方で環境とミスマッチしていれば不適応、問題行動、二次障害をきたすことになります。
特に、高校までの生活では、なんとか適応できていた学生でも、大学環境とのミスマッチから問題が起きることがあります。
大学においては自己決定が重視されること、そして能動的な学習がもとめられるということがそれまでとの大きな違いです。

特に勉強はできても自己理解やライフスキルに欠けたまま、親をはじめとした周囲が本人不在のまま進路まで決めて大学に押し込んだみたいなケースが大変だろうなと思いました。ズルズルと学校にいけなくなり、結局退学して家居になり受動的だけど身動きがとれないようなケースも未だに多く経験します。本人の体験やモチベーションが一番大事ですが、それが普通でないと幼少時よりずっと取り上げてもらえなかった結果、学習性無気力状態となった受動の状態は大変です。
支援者としてはそこを出発点にするしかないのですが・・。

特性と大学環境とのミスマッチから起きる問題の例

・基盤となる生活が不安定(一人暮らし、寮など)➕自己コントロールの弱さ  →朝起きられず1コマ目の出席日数が足りない。
・自由度が高く構造化が低い➕プランニングの弱さ、実行能力の困難 →予定の詰め込みすぎ、実行不可能な計画
・対人関係も複雑(サークル、ゼミ、研究室など)➕コミュニケーションが苦手 →わからない部分を聞けない、グループワークや実習などの立ち回り方がわからない
・ 曖昧な中から、自分なりに論理を組み立てる課題➕読み書きの困難、論理的思考能力の難しさ、体験不足→レポートがかけない

支援に関しては、「失敗させて自己肯定感を下げる」ことと「失敗(体験)しないと覚えないこともある」のさじ加減が難しいとのことです。

入学後の適応差の背景に関して
特性が顕著でも幼少時より支援を受けてきた学生は、適応出来ているケースが多いとのことです。
これは、本人の(自己理解&対処スキル)➕(援助希求&周囲の合理的配慮(を求めることができる))からです。

問題にならずに修学出来ている学生
・入学後にすぐ支援を求められる。
・入学前に自己理解ができている(心理検査などを行い、自分のクセなどを知っている、自分なりの対応策を試している)

休学や退学、留年などになってしまう学生
・支援につながる時期が遅い(夏休み以後)
・配慮の必要な障害特性を特定することから開始
・自分から支援を求められない、求めない

支援の開始が遅れても、自己理解が進み大学で何をすれば良いかわかってくると一気に適応する人もいますが、支援の開始はやはり早いほうがいいです。
また入学前、入学直後、座学時代、実習開始、就活、就職後と求められているものも時期によって変化してくるので伴走は書かせません。
支援に関しては、見守り、教職員レベルの配慮、学科レベルの配慮、合理的配慮(文書発行を念頭に置いた調査)、大学が大学の責任として文書(依頼状)を発行しての合理的配慮。ピラミッド構造となっています。相談部署としては学生がこういう症状でこういう配慮を求めているが可能か、取りまとめて対話をしているそうです。

合理的配慮(多様性の尊重。ハンディ分は補いましょう)を求めることができますが、でもそこから先は自分次第。配慮は他の学生と同じスタートラインに立たせるところまでです。
また合理的配慮は一番最初は学生が申し出るところから始まります。(逆に言えば申し出なければ始まらない)
そして合理的配慮の根拠となる診断、アセスメント。本人の困り感、認知行動特性の評価をおこないます。
これには自己理解の促進につながる自己像の評価をするために大事な資料になり、強みと弱み、光と影を丁寧にフィードバックを行うそうです。

相談担当者としては、「目の前にいる学生が自分でやれたという感覚を持って卒業してもらいたい。」とのことでした。

具体的支援の例

課題提出期限延長。(期限は先生との話し合い)同時に二つのことをやることが難しい学生。
使用教室配慮。別室受験(センター受験でも増えている。人員配置など結構大変)
支持の視覚化(口頭だけではなく、メールやウェブ上に課題や資料。文書、板書による指示。ユニバーサルに喜ばれる。)
授業の録音板書撮影許可。
文字音声変換機器を使った発表の許可(選択性緘黙など)
発達特性の周知。

授業支援以外の個別支援としては情緒の安定と自己理解がスタート。プランンニングスキル、修学支援、就職支援、メンタル面の支援を行っているそうです。
生活支援としては、朝、起こしにはいかないが、起きるためにどうすればいいかの相談などは行います。
たとえばスケジュールのアラームの利用。予定の日と一日前に入れるなど、アイディアは本人の中に持っているとのことで、教えても出来ないものはできないとのことでした。必要なら障害者雇用、外部支援機関との連携も行いますが、自分の特性と社会との接点をキャリア教育の中で入れていくことが必要であり、また、ここに行けば安心という場所を作っていくことも大事だそうです。
それに関しては、障害を持った人だけに特化というのではない形でのワークショップ、グループ。ソーシャルスキル、ピアサポートなどを推進していきたいとのことでした。
大学のサークルとして「あるあるラボ」があってもいいかも知れませんね。

小さな失敗は必要です
小さな失敗は必要です。これは成長、自己理解のヒントになります。
親を始めとする周囲は先回り支援をできるだけしない、やってみたいことはまずやる、上手くいかなかった時に一緒に考え、自分なりの方法で解決するように試行錯誤すること。支援者側や親が我慢する、待つことが大事と強調されていました。

最低限の生活の自己管理は身につけてから来てね。
大学で対応できる範囲には限界ある。大学の門入るまではご自身、ご家族でやってもらいたいとのこと。
そして、大学生になったから急にできるわけではないので、一人暮らしや寮生活の選択は注意が必要です。
ライフスキルは大事です。学業よりもむしろこっちが先。

大学、学部の選択は慎重にしてね
不本意入学者、ミスマッチは大変です。
登り始める山をどう選ぶか?ということに関しては、ディプロマポリシー、シラバス、問い合わせ、オープンキャンパスなど利用してイメージをもって・・。
受験科目だけでの選択は要注意です。受験になかった科目の力ももとめられます。
また、人とあまり関わりたくないのに資格が取れるからと対人援助職のコースなどはやめてほしいとのこと。

小さな頃から選択活動をして、好きなもの、得意なものがあるか、自己理解をしているか、援助希求できるか、ライフスキルがあるかということが本当に大事ですね。

そして大学生活でも試行錯誤を通じて社会人になる前に。私のトリセツを作れるように。自己対処、援助希求ができること、信頼できる支援者を得ること・・。

支援者も、信頼、安心感をもてるように、なんでも一人でやらないようにすること。学生の強みを上手く引き出し、どれだけ工夫できるか・・。
学内にこういう部署があると本当に安心ですが、それを上手く使っていくためにも幼少期からの気付きと関わり、自己理解、援助希求があらためて鍵となるだなあと思いました。

次回の診療部セミナーは2019年5月18日で摂食障害をテーマに開催予定だそうです。

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